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アート

東海歴史散策

歴史的な場所がだんだん開発の波にのまれうしなわれていく今日。
草むらに、ビルの谷間に、忘れられたようにひっそりと存在感をなくしている。
東海地方は史跡の宝庫。記憶に残っているものを少しでも多く紹介することが
大切という思いからメールマガジンで紹介し続けている。
川田きし江 プロフィールを見る

過去の記事一覧

1.哀話の坂道、からたちの砦の坂道

2.陶器と美濃源氏と化石植物の里

3.海賊大将軍のふるさと

4.戦国軍師が眠る美濃一の宮

5.大神に仕えるイツキノミヤ

6.神代の生活を守る幻の大和民族「山窩」

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雪と静寂に包まれる野沢温泉

 
野沢温泉


 夕暮れになって降り出した雪は、みるみるうちに激しくなり、その向こうに町並みが急速に遠ざかっていった。

 いつも百度に近い湯がわき続け、村の人が野菜の煮炊きや洗濯に利用している麻釜(おがま)、勢いよくたちのぼっていたその湯気に雪が加わって、ことさらそのあたりのベールだけは厚く大きくゆらぐ。

 雪の降る野沢温泉の夕暮れは、幻想の世界、しみる寒さがなければ、厚い雪にくるまれたその風景の中にうまれた里といった思いになる。

 約半年もの間,雪に閉ざされるわびしい奥信濃でも、ひときわ山深いところにある野沢の温泉は、聖武天皇の御代僧行基によって今から千三百年前に発見されたという伝説がある。

 湯煙に包まれてひっそりと静まる野沢の里には、長い冬の内職に裏山からアケビのツルを切り出し、温泉でなめして加工する素朴であたたかい人情味あふれるツル細工の鳩車が有名である。

 雪と野と樹氷の静寂。毛無(けなし)山を越えて、音もなく降る雪が、一夜のうちに数十センチも積もり、きのうまでとは全く違った風景にしてしまうことも多い。

 毛無山のゲレンデに立って見はらす風景は雄大である。

 樹氷の花咲く大斜面が、三方からゆるいカーブを描いて落ち込み、広大なその底が再び西に盛り上がって丘になる。そのゲレンデを中心に尾根が四方にゆるやかに広がり、奥信濃の山々をつないでどこまでも伸びている。

 野沢の冬が一番にぎわうのは道祖神火祭で二十五歳と四十二歳の厄男の男性がきびしい風雪をついて山野に分け入り、大木を切り出して当日の社殿を作る。

 古代インドの仏教建築を模したこの大社殿はすぐに華やかな大祭殿として飾り立てられ、夜ともなると手に手にたいまつを持った村人によっていっせいに火がかけられ、天をこがす火柱が山国の忍従をふきとばすように激しく燃え上がる。それを厄男たちが消してまわる祭りである。



 

35.家康ゆかりの町 岡崎

37.豊年を祝って舞う「花祭り」

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