
こうして50年も版画を作り続けていますが、版画の魅力は、他の絵画には無いシンプルさですね。真っ黒な絵の具の中に、「すっ」と、一筋白の彫り筋が入る。白と黒の対比、それがたまらなく好きです。
逆に難しいところは、刷りでしょうか。どれだけ綺麗に彫っても、刷りがうまくいかなかったら作品は台無しです。作品の出来は、刷りに左右されるのです。
1度できれいに刷れたら言うことなしですが、なかなかそうもいきません。私は、一度刷ってから、半分ずつ紙を持ち上げて、絵の具を足してからもう一度刷る、というのを繰り返します。大体3回くらいやると、綺麗に色が乗るのです。
こうして、「描き」、「彫り」、「刷る」という三段階の複雑な行程を経ながらも、完成する作品は非常にシンプルな美しさを持っている。そんなギャップがたとえようもなく 魅力的で、版画を作り続けているのかもしれません。 |