 |
駒作りの時の神田さんは、真剣そのもの。
使い込まれた駒作り道具も、すべてオリジナルです。 |
|
|

「あれは忘れもしない、アマ初段だった23歳の時です」 将棋に夢中になり、本格的な駒と盤を手に入れようと足を棒にして探し回り、やっとのことで見つけた将棋セットはしめて28万円。当時まだ若かった神田さんにはとうてい手の届くものではありませんでした。
「でも、どうしてもそのセットが欲しくて。結局、有り金はたいて盤だけ買いました。駒は自分で作ろう!って決心して」 もともと建築板金業を営んでいたため手先は器用。工具も持っています。時間はかかりましたが、途中で投げだすこともなく、一作目を仕上げることができたと言います。
「自作した駒で対局するじゃないですか。そうすると、不思議と勝てたんですよ。実際には、こいつは駒を自作するくらいの玄人なのかって相手が勝手に畏縮してくれたんでしょうけど」
自分でオリジナルの駒を作ってみようと思い立つ人の数自体は、少ないわけではありません。でも大抵は、作っても一組か二組まで。なぜなら、将棋を打つにはそれだけあれば十分だからです。 では神田さんが700種類まで作るに至ったきっかけはなんだったのでしょう?
 |
神田さんは、駒の作り方を実演してくれました。 (上)文字の書かれた和紙を木材に貼り、和紙ごと彫ります。
(中左)彫り込んだ部分に漆を流し、(中右)紙ヤスリで表面を磨くと、表面の漆が取れます。
(下)最後に布で拭くと、鮮やかに文字が浮かびあがります。 |
|

「最初の二組は将棋駒本来の素材……つげの木で作ったんです」
つげの木は粘り気があり扱いやすく、昔から使われている伝統的な素材。プロ棋士が使う良質の駒はすべてこの材で作られています。神田さんも最初の駒作りはつげ材で、駒職人さんと同じように五角形に形作るところから始めました。 完成した二組の駒と将棋盤を最初に披露した相手は、つげ材を譲ってくれた材木屋さん。たいそう面白がって「じゃあ次はこんなので作ったらどうだ?」と、また木材をわけてくれたといいます。
それはカキノキ科の常緑高木、黒檀でした。緻密で硬い材質や、光沢のある黒い木肌の美しさから高級家具などに珍重されている木材。仏像などにも多く使われ、唐木(とうぼく)とも呼ばれています。 「黒檀材の硬さといったら、つげの木の比じゃありませんでした。彫刻刀を何本折ったかしれません。あの時はノミやカンナも総動員でした」
まだ、作りはじめて三作目。技術というよりも根性で、長い時間をかけて作り上げていったと神田さんは語ります。
「でもね。完成した駒を眺めて思ったんです。刃物よりも硬い木は無いんだなって」
どんな木材でも将棋の駒は作れるのだと教えてくれたのが、この黒檀の駒。700種に及ぶ型破りの駒を作るきっかけは、この三作目にこそあったのです。
|