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(上)神田さんの工房兼ご自宅。 (中)ベランダに下げられているのは木材。 このまま一年間ほど乾燥させます。 (下左)木材には名前と日付をつけて管理しています。 (下右)本棚には木に関する本がぎっしり。 |
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こうして始まった変わり駒づくりでしたが、苦労したのはやはり、木材を集めることでした。最初のうちは東急ハンズやクラフトショップなどに通い詰めて、新しい木材を入手していましたが、一通りの駒を作ってしまうと、新しい材質に事欠くようになります。
「私は板金加工が職業なので、よく工事現場に行くんです。そこで高いところに登りますよね。そうすると、現場の近所が見渡せるんですが、見慣れない木があると、こっそりと覚えておいて、後でノコギリを持って行くんです。ひと枝分けてもらえませんかって」
たいていの人は、神田さんの突然の申し出に驚きましたが、事情を話すと快く承知してくれたそうです。
そうして変わり駒を作り続けているうちに、転機が訪れます。それは、制作した作品が350種類を越えた頃のことでした。 プロの棋士が1人で120人の子供相手に将棋をする『百二十面指し』というイベントを開催することになりました。その時に使用する駒として選ばれたのが神田さんの駒。そこで、前代未聞の『百二十面指し』と合わせて、神田さんの『350種の駒』をギネスブックに載せようということになり、関係者はひとしきり盛り上がりました。 しかし、残念なことにどちらもギネス記録に載ることはなかったのです。
「掲載されなかった理由は、『競争相手が世界に一人もいないから』というものでした。ギネスを逃したのは残念でしたが、競争相手がいないというのは、かえって話のタネとしては面白くて良かったですね」
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(上)(中)様々な木材で作った駒たち。五十音順に並んで いるので、新しく作る度に並べ直すのが大変だそう。
(下)駒が入ったパネル上の言葉に自信がにじみます。
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その効果はてきめん。なんとイベント後、神田さんの元に材料の提供を申し出る人が現れるようになりました。それは材木業者に限りません。「自分の庭に生えている木を使ってみないか?」と、一人住まいのご老人など、一般の方からも声がかかるようになりました。 それまでは自分の足で、作ったことのない木を探しに出かけたりもしていた神田さん。提供する人が増えてきてからは、作るのが間に合わないほどに、材料が集まるようになったのです。
「今では本人よりも周りの人が熱心に探してきてくれて、嬉しい限りです」 現在までに仕上げた駒の素材は、700種類。さらに手元には製作待ちの素材が100種類。この調子なら「1000種類達成も夢じゃない」と神田さんは言います。
神田さんの駒作りにかける情熱は、自然と周囲の人を巻き込んで動かしています。1000種類達成を望んでいる人は、もはや、作っている神田さん本人だけではないのです。
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